生物応答試験を用いた水環境の評価•管理手法の現状と今後

摘要

先進諸国では，高度経済成長期に生じた工場排水や生活排水の不十分な水処理に起因する深刻な水質汚濁の問題は，適切な法整備と廃水処理によって大きく改善されている。一方で，われわれの日常生活を快適にしている化学物質の多種多様化が進み，水質環境基準や排水基準の設定，化学物質排出把握管理促進（PRTR)法などによる自主管理，化学物質審査規制法（化審法）や農薬取締法（農取法）等による製造•輸入時の規制制度の組み合わせだけでは，未規制物質や複数物質を合算した影響などが十分に評価•管理されているとはいえない。先進各国ではこういった未規制•複合化学物質の影響を評価•管理するため，個別の化学物質ベースの環境基準や排水規制に加えて，生物応答試験（あるいはバイオアツセィ）を用いた水環境の評価•管理が導入されている。米国では，Whole Effluent Toxicity (WET)のシステムが導入され，個別の化学物質に加えて排水が放流先で希釈された際の生物影響がないような措置を講ずることが義務付けられている。ドィッでは排水令において，業種ごとに各種の生物応答試験が要件に入れられているほか，フランス，スウェーデンなどでも法制度化されている。また，近年は韓国や台湾などのアジア諸国でも生物応答試験の排水規制への導入が進んでいる。わが国でも2009年度から環境省ならびに国立環境研究所において，生物応答試験を用いた水環境の評価•管理手法の導入に向けた専門家会議やパイ口ット事業を実施しており，2016年度以降は，環境省主催による自主管理をべースとした導入に向けて公開の検討会を開催している。本稿では，国内外の生物応答試験を用いた水環境の評価•管理手法の現状と課題について解説するとともに，環境省の「生物を用いた水環境の評価•管理手法に関する検討委員会」の進埗状況について述べる。