連載・脳のなかの有限と無限 第35回 音楽のなかの有限と無限

摘要

人間の脳に宿る〈世界像モデル〉が有限系をとるか無限系をとるか……。社会ごとに異なる「文化という名の脳機能体系」の対比のなかから有限の星，地球にふさわしい生存戦略を探るのが，この連載の主題です。〈無限系世界像モデル〉のもと，実際には有限の地球を無限であるごとく操作してきた近現代文明の限界は，いまや明らかです。こうした取り違えは何を招くか，その象徴的な絰緯を西欧音楽の歴史に探っています。無限の創造性天国を実現した十九世紀の西欧音楽。そのきわみに現れた〈無調性音楽〉とそれに続く現代音楽の中に，[人類の遺伝子に約束された音楽と一致しない音の入工物]と疑われるものが高密度に存在する可能性を否定できません。今回は，この問題を掘り下げ，崩壊している音楽概念を再構築する上での，生命科学的アプローチへの期待を述べます。