連載·脳のなかの有限と無限: 第34回 音樂のなかの有限と無限

摘要

人間の脳に宿る〈世界像モデル〉が有限系をとるか無限系をとるか……。社会ごとに異なる「文化という名の脳機能体系」の対比のなかから有限の星，地球にふさわしい生存戦略を探るのが，この連載の主題です。〈無限系世界像モデル〉のもと，実際には有限の地球を無限であるごとく操作してきた近現代文明の限界は，いまや明らかです。こうした取り違えは何を招くか，その象徴的な絰緯を西欧音楽の歴史に探っています。〈五線定量譜〉，〈十二平均律〉，〈音楽と楽譜との可逆的等価変換律〉そして〈ピアノ〉を開発し無限の創造性天国を実現した十九～二十世紀の西欧音楽。それは，[入類という生物の遺伝子と脳に本来設定された音楽]と一致しない音の人工物というべき〈十二音技法〉を，「音楽である」として社会に定着させてしまいます。今回は，そうした過程を迪りながら問題を導き出し，吟味してみます。