高音が2オクターブも低音に誤認識される 順天堂大、新しいタイプの聴覚障害を発見

摘要

順天堂大学医学部の神谷和作講師らの研究チームは仏·パスツール研究所などとの共同研究で、聴毛配列の異常によって〃高周波の音が2オクターブも低周波の音に誤認識される"という全く新しいタイプの聴覚障害の存在を発見した。音の振動は、鼓膜から耳小骨へ伝わり増幅され、内耳の蝸牛と呼ばれる渦巻ぎ管状の組織に満たされたリンパ液を振動させる。このリンパ液の振動により、蝸牛の有毛細胞の表面にある聴毛が傾くと、先端のイオンの入りロが開いて細胞内にイオンがー気に流入することで、神経の電気信号を生み出している。内耳の蝸牛には、有毛細胞がピアノの鍵盤のような音階順でらせん状に並んでおり、この回転の下側が高音、上側が低音を認識する正確な音階の配列が存在する。神谷講師によると「生物は振動を電気信号に変換して聴覚信号を受容するが、電気信号に変換するイオンチャネルやそれを制御するメカニズムの全容は未だ解明されていない」という。そこで研究チームは、このメカニズムを解明するため、蝸牛有毛細胞の聴毛の先端部において、機械的振動を電気信号に変換するチャネルの開閉を担う、カドへリン23に結合するタンパク質を探索した。その結果、Nherfl(ナーフー、Na+/H+交換輸送体制御因子1)というタンパク質が、蝸牛有毛細胞の聴毛の先端部分でカドへリン23に結合する新たな聴毛の成分であることが分かった。これを欠損させると高音を認識する領域の聴毛配列が異常になり、その結果周波数の認識が激しく異常になることが見いだされた。聴毛配列が異常になったNherfl欠損マウスでは、高音(40キへルロツ)が同じ音でマスキング(ある音を別の音で打ち消す)されず、その代わり30キへルロツ(2オクターブ)も低い音域(10キへルロツ)で、強いマスキング効果が見られた。