低い時間解像度の運動指令がもたらす手先軌道の性質：運動指令表現の単純化仮説

摘要

運動指令を低い時間解像度で表現したときに到達運動の手先軌道に生じる影響を数値実験により調rnべた．実験では，階段関数で表現した運動指令を筋骨格系モデルに与えて手先軌道を生成し，生成された軌道と二つの基準軌道（躍度最小軌道と指令トルク変化最小軌道）との誤差が最小になるような運動指令を求めた．その結果，階段関数の解像度が数十ms程度であれば最大誤差1mm程度でいずれの基準軌道も十分よく近似できること，ただし，解像度が粗い条件では指令トルク変化最小軌道の方が近似誤差が有意に小さくなることが明らかになった．この結果は，運動指令表現の時間解像度が粗い条件では，人間の手先軌道をより良く再現する指令トルク変化軌道の方が生成しやすいことを意味する．更に，解像度が粗い条件で終点誤差を最小化する運動指令を求めたところ，その指令から実現された手先軌道は外側にやや湾曲する手先経路とほぼ対称的なべル型速度波形という人間の手先軌道の特徴を定性的に再現することが分かった．これらの実験結果は，人間の手先軌道の特徴が筋骨格系の動特性と運動指令表現の時間的な租さの結果として生じた可能性を示唆する．