2013年台風ヨランダによる建物被害評価: フィリピン•サマール島バセイを対象として

摘要

本研究では，2013年11月に発生した台風ヨランダにより被災したフィリピンのバセイを対象地として，高潮と強風による建物被害の分析を行った。高潮による建物被害については，JICAから提供された建物被害データを用いて分析を行い，海岸線からの距離と被害の関係を明らかにし，被害関数を導いた。強風による建物被害分析については，2度にわたる建物被害悉皆調査に基づき，内陸部に立地している建物の属性データを収集し，ベースマップを作成し，5段階の強風被災度ランクを用いた分析を行った。その結果，RC造よりも木造の方が被害の大きかったことが明らかになった。また，建物階数，構造種別，海岸線からの距離を変数とした口ジスティック回帰分析を行った結果，構造種別による影響度が最も高く，RC造に対する木造の「顕著な被害以上」になる確率が3.7倍になることがわかった。そして，海岸線からの距離による影響も見られた。これはJICAデータを用いた海岸線からの距離による被災への影響とも整合性がとれていた。一方、階数による有意な差は得られなかった。ここで得られた結果は、2013年台風ヨランダによるバセイの建物被害によるものである。地震や津波による建物被害評価は、地震動や浸水深などハザードを説明変数として導く方法が用いられている。しかし、台風による沿岸地域の建物被害は，高潮と強風が複雑に影響している。また中心を持つ台風の影響領域に比べて，行政区の領域は小さく，各地区における詳細な風速と被害の関係を明らかにするのは困難である。すなわち、建物被害評価をするうえで、ハザードとしての外力である風速等を説明変数として用いることは難しい。そうした背景の中で，台風に対する地区の脆弱性評価に資する萌芽的な研究として，分析に取り組んだ。その結果、建物立地と建物構造種別に基づく被害評価モデルを構築した。本研究の対象地はバセイであったが，台風の勢力の異なる他の地域に対しても同様の分析を行い，ハザードと地域性による差異と同一性を確認し，普遍的な知見を得る必要がある。今後の課題としたい。%2013 Typhoon Yolanda (Haiyan) widely affected urban areas in the Philippines. Buildings damage caused by the typhoon in Basey Municipality was analyzed in this paper. The following findings were clarified. 1. Based on a data-set of building damage investigated by JICA, the relationship between building damage mainly caused by tidal wave and the distance from the coastline was clarified, and a tentative building vulnerability function was obtained. 2. Analyzing the building damage dataset obtained by the authors' field survey, it was clarified that the damage level of wooden buildings was higher than that of RC buildings. 3. The difference in types of building structure was the dominant factor of building damage by strong wind followed by distance from the coastline. Then a building damage assessment model from the 2013 Typhoon Yolanda was proposed.