複数の分離•検出法を併用した食品中残留農薬の多成分系統分析

摘要

食品に残留する農薬等のポジティブリスト制度が2006年5月に導入され，含まれる元素に特異的な感度を有するECD,FPDおよびNPDなどの選択型検出器を装備したGCやHPLCに加えて，広範の農薬成分の一斉分析を可能とする四重極型の質量分析計を装備したGC-MSおよびLC-MSが普及している.さらに，2008年1月に発覚した中国製冷凍ギヨーザに混入されたメタミドホスによる中毒事案もあって，生鮮食品だけでなく，複雑な成分（マトリックス）で構成されるさまざまな加工食品中の微量農薬等の一斉分析を可能とするために，より選択的で高感度なタンデム四重極型の質量分析計を装備したGC-MS/MSおよびLC-MS/MSが普及してきている.特に，最近のMSおよびMS/MS(以下，MS(/MS))は，感度やデータ取込速度，制御・解析ソフトウエアなどの性能が一段と向上しており，残留農薬の多成分分析において，主要な装置となってきている.しかし，分析対象となる農薬成分は，物理的•化学的にさまざまな性質を有する物質群であり，複雑なマトリックスの中から微量の農薬成分を分離して定量することは，GC-MS/MSやLC-MS/MSをもってしても決して容易なことではないと考えられる.多成分分析法は，多くの農薬成分を検出可能とする条件で開発されているために試料精製が不十分になりやすいうえに，MS(/MS)はイオン化阻害を始めとしてマトリックスによる影響を受けやすいといった欠点を有している.