伝統的町並みにおける遮蔽要素と出現要素の種類に着目した空間構成の特徴産寧坂伝建地区の歩行時を対象とした定量的分析

摘要

日本の伝統的建築物は、屋根、壁面、門扉などのさまざまな厚みを持つ部材によって構成された凹凸の多いファサードである。一方、近年建設される高層建築物は、大きな壁面やガラス面による凹凸の少ないファサードであり、これらが混在した町並みに変容しつつある。凹凸の多いファサードでは、人の歩行に伴い、ある壁面などの出隅の背後に隠れているものが次第に現れるという現象が生じる。この出隅のことを、ギブソンは遮蔽縁と呼hでいる1)。本稿では、部材の輪郭の一部が遮蔽縁を形成する遮蔽要素と、その背後から現れる出現要素が、歩行に伴う町並みの見え方の変化を特徴付けるのに重要な要素であると捉える( 図1)。そこで、伝統的町並みにおける歩行時の町並みの見え方の変化および空間構成の特徴を明らかにすることを目的とし、各視点の出現要素の種類別の推移および通り全体における遮蔽要素の種類と出現要素の種類の共起関係に着目する。既往研究では、連続静止画を用いて遮蔽縁の背後における現れ方の特徴的なパターンを取り上げ、視点の移動に伴いそれらの変容を提示している。それに対し本稿の独自性は、3 次元モデルを用いて各視点より先にあるすべての遮蔽要素と出現要素を抽出し、視点の移動に伴うそれらの数量的変化や遮蔽要素と出現要素の共起関係について詳細に分析する点にある。