総説建設業と生物多様性の係わり

摘要

"生物多様性(biodiversity)"という概念が土木技術者にとって本質的に重要かつ有益であるのか，それを伝えるのは非常に難しいと考える。一般に，生物多様性は，生態系•生物群系または地球全体に多様な生物が存在していることを指し，生態系，種，遺伝子の3つのレベルの多様性として捉えること，といわれている。しかし，このような定義は直感的に理解しづらいと思う。これは，"空気"の存在を認知しても特段意識していない事象と類似している。人類が多様な生態系との密接な関係性を保持する基盤の上に存在していることを，我々が意識する機会が少なく，"生物多様性"の必要性や重要性を直接的に認識しづらいこともある。自然は，あらゆる生物が互いにつながりを持ちながら，豊かな生態系や自然環境を維持し，その結果として人類は，衣食住•医療•文化•産業（建設産業含む）など，社会活動に多くの恩恵を享受している。一方，地球上に3,000万種存在するともいわれる多様な生物は，人間活動が主な要因で，その絶滅のスピードが加速し，生物多様性の劣化は地球温暖化と並ぶ重要な課題となっている。