運動想起型BCIのためのニューロフィードバック訓練における受動的感覚呈示の影響

摘要

近年，肢体不自由者の意思伝達·移動手段［1，2，3］や脳卒中片麻痺患者のリハビリ支援手段［4，5］として，脳波を用いたブレイン·コンピュータ·インタフェース（brain computer interface：BCI）に関する研究が盛hに行われている．脳波型BCIでは，知覚あるいは運動生成に関連して特異的に発生する事象関連電位（event related potential：ERP）が使用される．ERPは，外部トリガを必要とする外因性脳波（exogenous）と，必要としない内因性脳波（endogenous）に分けられる．外因性脳波には，視覚誘発電位（visual evoked potentials：VEP）やP300があり，内因性脳波としては皮質緩電位（slow cortical potential：SCP）や事象関連脱同期（event related desynchronization：ERD）などが挙げられる［6，7］．ERDは，運動実行（motor execution：ME）や運動想起（motor imagery：MI）によって，脳波の特定の周波数帯域（腕運動の場合は8-13Hz程度）で信号の相対的なパワーが低下する現象である．VEPやP300は外部から呈示される視覚刺激に対する脳の潜在的反応を利用した位相固定の脳波特徴量であるのに対し，ERDは，運動実行や運動想起に伴って発現する位相非固定の脳波特徴量であり，直接的な操作を目的とするBCIシステムの実現に適している．本研究で対象とする片麻痺患者のためのBCIニューロリハビリテーションでは，運動企図に合わせて他動的に麻痺肢を動かすことで求心性の感覚をフィードバックすること（re-afferent）の重要性が示唆されており，この目的にはERDが適している［4，5］．これまでの研究から，他者の運動の様子を三人称的にイメージする視覚的運動想起ではなく，一人称的な想起，すなわち自らが運動を行っているような運動想起をしたときに，感覚運動野においてERDが見られることが示されている[8]．また，運動想起以外にも，他者運動の観察，ロボットや機能的電気刺激による他動的な運動経験によってもERDが生じることが報告されている［9］．一方で，ERDの発現には個人差があることが知られており，運動想起によって随意的に生成するためには訓練が不可欠である．しかしながら，ERDの生成機序については末だ不明な点も多く，その解明やそれに基づく効果的な訓練方法の開発が課題である．本研究では，運動想起によるERDの随意生成訓練時に，ERD生成を誘発する感覚刺激を呈示することが訓練効果に及ぼす影響について調査する．具体的には，右手の把持運動の視覚映像（動画／静止画）を観察することが，運動想起型BCIのニューロフィードバックトレーニングに及ぼす影響を，4日間に渡る訓練成績から評価する．