内燃機関の音源モデルを用いたキャビンレストラクタの低騒音化検討

摘要

農業車両は，主に広大な農地で稼働するため，車両周囲の騒音に比べオペレータの曝露される騒音が問題となる．聴力保護の観点から，日本産業衛生学会により1 日あたり8 時間の騒音曝露での許容できる騒音レベルが勧告されている(1)．一方，生物系特定産業技術研究支援センターが発行する農業車両の検査成績表では，多くの車両が上記勧告値を超過しており，低騒音化の必要性が示唆される．農業用車両に搭載されている内燃機関から放射する空気伝ぱ音がオペレータ位置での騒音の大半をしめており，低騒音化には内燃機関からの騒音に対策を施すことが有効である．この空気伝ぱ音の対策としてエンジンルーム内の遮蔽が存在する．遮蔽により，騒音を効率よく低減するには，発音部からオペレータ耳位置までの音の伝達経路の中で，寄与の高い経路を特定することが重要である．音の伝達経路を特定する方法として，音響インテンシティの可視化がある．音響インテンシティとは音場内を単位面積，単位時間に通過する音のエネルギーを意味するベクトル量であり，音の指向性を示す．音響インテンシティの可視化方法として，実験による方法と数値計算を援用する方法がある．実験による方法として，マイクロホンアレイを用いたビームフォーミング法やMaynard らにより提案された近距離音源ホログラフィ法などがあるが，これらの方法はエンジンルーム内などの狭隘箇所での使用が困難である．そこで，本研究では数値計算を援用した方法により音響インテンシティの可視化を試みる．キャビンレストラクタに搭載されている内燃機関の表面振動速度（以下 音源モデル）を逆音響解析により同定する．そして，構築した音源モデルを入力とした音響解析により，内燃機関から伝ぱする音響インテンシティを可視化する．得られた音響インテンシティの結果より，エンジンルーム内での遮蔽箇所を検討し，騒音低減効果を実証することで，音源モデルを用いた音の伝達経路の予測による低騒音化手法の有用性を検証する．