血管の変形を考慮した模擬実験装置による動脈流れの力学評価

摘要

血管疾患は，近年の日本人の死因の上位を占めている.特にヒト動脈において起こる動脈硬化は代表的な血 管疾患である.動脈硬イ匕は動脈の柔さが変わることで，血液をうまく送り出せず，心臓に負担をかけたり，もろく破れ 易くなる.動脈硬化が進行した場合は，心不全や心肥大，心筋梗塞，脳梗塞を引き起こし，人体に致命的なダメージを 与える.動脈硬化の診療は，主に超音波などによる画像診断であり，治療方針の決定や外科手術計画，および術 後予測などが行われている.動脈硬化の力学的な特性の客観的な評価を実現し，これを用いた高度な診療技術 の研究·開発が望まれている.しかし，動脈のメカニクスにはいまだ不明な点も多く，実際に動脈の力学的な特性を評 価することは非常に困難となっており，その原因の1つとして血管と血流との連成が複雑である事が挙げられる.そこで本研究では，動脈のメカニクス解明のため模擬実験装置を利用した評価方法を検討する.実験的に動脈 の力学的な特性の評価をすることが望ましいが，ヒトに対して実際に検証を行う高侵襲な実験は倫理的な問題に より困難なため，擬似的にヒトの循環器系を模擬した実験装置を開発した.特に血管の変形と血液の脈動の連成 現象に注目し，柔らかな管に流体を脈動させながら送る実験装置とした.この実験装置で得られた結果を元に力 学的な評価を行い，血管の変形を考慮した動脈のメカニクスの解明を目指す.