心臓矯正ネットの設計を目的とした心機能シミュレーションと評価

摘要

拡張型心筋症（Dilated Cardiomyopathy: DCM）は心不全の一種であり，心筋細胞が変化して心筋が伸び，左心室の心筋収縮能の低下に伴い心臓のポンプ機能の低下を招く病気で，心臓から拍出する血液量が不足しこの血液の不足分を補うために心臓がさらに拡張する進行性の心疾患である．心不全の術式の1 つとしてBatista 手術があるが，この術式は患者の負担が大きく，再度拡大する傾向にあり心拡大を完全に抑制できず，また，末期心不全患者に対しては効果が期待できない問題がある．近年では，拡張型心筋症に対して，心臓に矯正ネット(Cardiac Support Device: CSD)を被せる治療法が注目されている．心臓矯正ネットは，心臓の拡張を抑制すると同時に心臓の形状を整え，心機能の維持，回復が期待される．しかし，従来の矯正ネットは，術中にそれぞれの患者の症状に合わせて医師がネットを縫合し，その大きさを決めているため，手術に時間を要するとともに，術後に心機能が回復するか不明な点が課題となっている．以上のことから，患者個人の心臓の大きさや形状の症状に適合し，心機能が回復する心臓矯正ネットを手術前に設計できる技術の確立が求められている．本研究では，患者個人の心臓形状を抽出しモデル化できる手法を確立するとともに，有限要素法解析を用いた心機能シミュレーションによる心機能評価法を確立し，拡張型心筋症患者の症状に合わせた心臓矯正ネットの設計手法を検討することを目的とする．