巻取りロールの温度変化に伴う損傷防止を目的とした張力の最適化と実験検証

摘要

プラスチックフィルムのような薄く柔軟な連続媒体はウェブと称される．ウェブは，我々の身近にある包装用フィルムや光学フィルムなどの様々な製品に用いられており，その用途は広範多岐にわたる．さらに近年では，我が国の深刻なエネルギー問題を背景にクリーンエネルギーの需要が高まっており，ロール·ツー·ロール生産方式により製造される有機薄膜太陽電池やEV 用リチウムイオン電池の開発に期待が寄せられている．これらの製品では，ウェブ表面にコーティング，プリンティングなどの加工を施すことで，既存の電池製品に比べ大幅な生産コストの削減が可能になる．しかしながら，製品の高機能化に伴いより高い付加価値を与えられるため，これまでより高精度で安定した生産が不可欠となる．ウェブは，生産プロセスにおいて最終的にロール状に巻き取られる．巻き取られたロールはその状態で製品として使用することは稀で，二次加工などを行い最終的な製品とするのが主流である．その際，巻き取られたロールはエージングなどの熱処理工程や輸送時において様々な温度環境にさらされる場合がある．それにより，ロール内部の応力状態が変化してしまい不具合が発生し問題となっている．この不具合の代表例として，ロールの層間摩擦力が低下することで生じるスリップや円周方向応力が減少し圧縮応力になることにより生じるシワなどが挙げられる．このような問題に対し，巻取りロール内部の応力状態を正確に把握する必要があり，過去の研究により巻取りロールに生じる熱応力解析や測定が行われている．一方，橋本は巻取り時の不具合を防止する方法として巻取り張力の最適化を提案し，その有効性を実験的に検証しているが，巻取り後の温度環境の変化は考慮されていない．そこで，本研究では温度環境の変化を考慮した巻取り張力の最適化を行い，巻取りロールに生じる損傷防止の有効性を実験的に検証したので報告する．