シンクロ卜ロン放射光を用いた広角X線散乱/応力ひずみ曲線の同時測定による高シス含有ポリブタジエンの伸長結晶化に関する研究

摘要

高分子科学の発展にともない、様々な性能を有する合成ゴムが製造されるようになり、今日のゴム業界に多大なる寄与を及ぼしている。とは言うものの、未だに天然ゴムでしか要求性能を満たすことのできない用途もある。これは、破断強度、引裂性などの物性において、天然ゴムが有する優れた特性に基づいている。この特性は、天然ゴムが伸張結晶化しやすいことと密接に関係していると考えられており、それゆえ、天然ゴムの伸張結晶化の研究が活発に行われている[1]。伸張結晶化とは、非晶のゴムが伸張されることによって結晶化が起こる現象である。天然ゴムの主成分はポリイソプレンであり、そのミクロ構造は、完全に揃った、すなわち100% のシス体である。これを模倣して、ポリイソプレンを人工的に合成することが可能であるが、ほhの数％でもシス型以外の幾何異性体が存在すると大きく物性値が低下する。しかしながら、シス組成を極めて100%に近づけることは、高分子合成化学の学問的にみても困難を極める。ようやく最近になって、極めて高いシス含率のポリブタジエンを合成することのできる新規な触媒が開発され、シス含率を99.4%にまで高めることができるようになってきた。これまでの予備検討によって、このようなハイシスポリブタジエン試料は天然ゴムよりも伸張結晶化性能に優れていることが明らかにされている。そこで本研究ではこのような試料を用いて、伸張結晶化挙動に与えるシス含率の影響、分子量の影響、延伸速度の影響を、放射光施設で得られる高輝度のX線を線源に用いた広角X線散乱(WAXS)測定によって包括的に明らかにすることを目的とした。