水素含有量がダイヤモンドライクカーボンの移着膜の形成に及ぼす影響：分子動力学法シミュレーションによる解析

摘要

固体潤滑被膜であるダイヤモンドライクカーボン（DLC) は，多くの分野で使用されている.DLCは摩擦界面における化学反応により，鉄や炭化ケイ素（SiC)などの相手材表面に移着膜を形成し，低摩擦を示す.この移着膜の形成にはDLCの水素含有量が大きく影響している.例えば，水素含有量が増加すると，移着膜が形成されやすくなり，移着膜中のsp~2炭素も多くなることが報告されている.DLC 膜の摩擦特性をさらに向上させるためには，移着膜の形成プロセスと水素含有量が移着膜の形成を促進するメカニズムを詳しく理解することが重要である.しかし，摩擦界面におけるDLC膜と相手材との化学反応や摩擦中の構造変化はその場観測が困難であるため，これらのメカニズムは未だ解明されていない.そこで，本研究では分子動力学シミュレーションを行い，水素含有量がDLC膜の移着膜の形成に及ぼす影響を解析し，そのメカニズムを検討した.