材料の特性はその微細構造と密接に関わっており,微細構造解析技術の進歩は材料開発の行方を左右すると言える.特に最近では,マルチスケールという言葉が積極的に用いられ,原子レベルから巨視的なバルクのスケールまで一貫して行う複合的顕微鏡観察,時間軸を考慮したその場観察,立体構造を見る3次元観察といったアプローチが増えている.ここで採り上げる3次元観察は,微細構造の定量評価法としてだけでなく,計算機による材料微細構造の研究とリンクさせる手段としても注目度が高まっている.これは,2次元の顕微鏡画像から観察対象の立体構造を予測するといった近似化作業が3次元データには不要であり,微細構造計算の初期値として活用可能な信頼度の高いものとみなせるためである.そのような3次元微細構造解析技術の中でも,ここでは透過電子顕微鏡(transmission electron microscope: TEM)による格子欠陥の3次元観察に関する最近の研究を紹介する.TEMで観察する格子欠陥の代表格は,線状欠陥の転位(dislocation)である.転位の存在とその運動をベースに構築された転位論は,結晶の塑性変形挙動や各種力学特性を定量的に理解するためのツールとして,今も中心的な学問である.機能材料に目を向けると,例えば発光素子材料であるGaNなどのIII-V族化合物半導体では,転位の存在やその微細構造が発光特性に影響を及ぼすことがよく知られている.
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