量子化学計算による脂肪酸エステルのTHzスペクトル推定

摘要

電波と光の中間の周波数帯であるテラへルツ(THz)波領域の吸収特性を用いたTHz分光法が注目されている。THz帯は赤外(IR)より低いエネルギー領域に属している。このためTHz帯の吸光特性は、IRが分子の官能基の特徴を表すのに対し、分子全体の振動や分子間の相互作用などに関係していると考えられる。この波長領域の物質に対する吸光特性が明らかになれば、これまで得られなかった分子間の相互作用や分子の三次元的な構造などの情報が得られる可能性がある。材料の分子設計や機能設計が高度になるに従い、THz吸光特性を含む新たな物性解析手法の重要度が増しており、THz波を利用した研究や解析の報告が盛hになってきている。THz波を本格的に活用するためには、各吸収ピークに対する帰属が必要であるが、この領域の吸光特性は複雑であり、いまだその詳細は明らかになっていない。コンピュータの性能が飛躍的に向上するに伴って、量子化学計算による解析が様々な分野で活用できるようになってきている。それに伴って応用分野が広まってきており、絶縁·誘電材料の解析にも活用されるようになってきている。従来、吸光スペクトルの帰属は、膨大な実験による検証によって行われてきたが、量子化学計算による振動解析を行えば、より効率的にスぺクトルの帰属が可能であると考えられる。著者らは、近年環境に配慮した絶縁油として注目されているエステル油のTHzスペクトルの測定を行い、この領域にブロードな吸収があることを報告している。本論文では、エステル油の基油として使用されるいくつかの脂肪酸エステル系物質についてTHz吸光スペクトルの予測を量子化学計算ソフトであるGaussianによって行った。実際の測定結果の各吸収と比較し、計算結果の検証を行った。