乳幼児の自他認知の発達とそれを支える養育者の心の知覚－構成的発達科学における行動心理実験からのアプローチ

摘要

乳幼児はいつ，どのようにして自己に気づき始めるのか．また，それは他者との関わりの中でどのように育まれ，乳幼児の神経機構として記述されるのか．自他認知の課題は人間の認知発達の基盤であり，様々な分野の研究者によってそのメカニズムの解明が試みられてきた[1]．科学研究費補助金特別推進研究「神経ダイナミクスから社会的相互作用に至る過程の理解と構築による構成的発達科学」[2]では，工学と心理学，そして脳科学を融合することで，社会的相互作用を通した自他認知の発達メカニズムを明らかにすることを目標としている．ここでは，乳幼児の認知能力の発達を個体内の現象として捉えるのではなく，環境や他者とのダイナミックな関わりの中で，自他が未分化な状態から徐々に自己と他者を確立し，そして，同時に他者との随伴的な関係性を築くことで，様々な社会的能力を発現していると考える．本稿では，本特別推進研究において遂行している自他認知に関わる行動心理実験のうち，3つの研究例を紹介する．第一に，視線随伴パラダイムを利用した乳児の自己認知の萌芽に関する研究，第二に，自己認知の発達を支援する養育者の心の知覚の神経基盤に関する研究，そして第三に，乳幼児と養育者のダイナミックな相互作用を通した社会的随伴性の発達に関する研究である．これらの実験結果を踏まえて，他者との関わりを通した自他認知の発達メカニズムについて議論する．