創発的な身体運動の発生と社会的相互作用の内部メカニズムへの理解に向けた脳発達シミュレーション

摘要

科研特別推進研究「神経ダイナミクスから社会的相互作用に至る過程の理解と構築による構成的発達科学」では，平成24年度から5年間の計画で，計算理論，脳機能イメージング，行動計測，心理実験など様々な面から，学際的に人間の認知発達過程の理解することを目指している．プロジェクトでは，発達における自他認知について(1)生態学的自己,(2)対人的自己，(3)社会的自己の3つの発達段階を考え，それぞれの段階における神経系と環境情報の同調，脱同調のダイナミクスが，自他の同一視と自他の分離を可能にしていると考え，理論と実験の統一的な枠組みを構築する．プロジェクトのグループの一つである脳発達シミュレーショングループでは，脳機能イメージングの実験によって得られた脳活動の実験結果や，行動計測や心理実験で得られた行動レベルの実験結果を説明することが可能な，ミクロとマクロの神経系モデルの構築を行っている．アプローチとしては，ボトムアップなアプローチとトップダウンのアプローチがある．ボトムアップ的なアプローチとしては，脳発達の大規模計算機シミュレーションによってミクロな神経活動のダイナミクスからマクロな行動の理解を目指している．一方で，トップダウン的なアプローチとして，実際のロボットプラットフォームでのコミュニケーション実験の実現を目指したマクロレベルのモデルの構築も行っている．本稿では，これまでに得られた研究成果の概要を紹介し，最後に今後の展望を述べる．