水熱合成により得られるWO_3の形態と結晶構造に添加剤とPhが及ぼす影響

摘要

低濃度のアセトンを高感度かつ選択的に認識するセンサは、呼気から非侵襲で糖尿病の予兆をとらえられる可能性があり注目されている。酸化物半導体ナノワイヤは、基材や修飾触媒を変えることで、様々な分子を高い感度で認識できるため、次世代の分子センサ用材料として着目されている。なかでも、酸化タングステン（WO_3）はアセトンのセンシング基材として高いポテンシャルを持つことが知られており、水熱合成によって、電極の形成が容易で比表面積が高くセンサ材料に最適な単結晶ナノワイヤ（Nanowire:NW）形状に成長させることも可能である。しかし、酸化タングステン（WO_3）の水熱合成は、成長条件によってその構造は多様に変化し、アセトンを認識するために最適な空間群を有する六方晶のWO_3 NW(h-WO_3)の成長条件は完全には理解されていない。例えば、Na+と SO42-が存在する溶液中では一般に h-WO_3 NW は[001]方向に成長するという報告が多い[1-4]が、(001)面に吸着するNH_4+を添加することで、Na+とSO42-を含む溶液から[110]方向に成長した h-WO_3 NW を合成したという報告もある[4]。また、NH_4~+の添加によって[110]方向に成長したNWでは、酸素原子の配置のずれに起因した空間群の変化が報告されている。さらに、この[110]方向NWでは、NW側面である(002)面に酸素配置のずれによる電子分布の偏りが発生し、NH_4~+を添加しない[001]方向NWよりもアセトンを高い選択性で認識するという報告がある[5]。このように、NH_4~+を添加することで、アセトン認識に最適な空間群を有するh-WO_3 NWが合成できるが、その形態がPhによってどのように変化するかを詳細に調べた研究はなかった。本研究では、アセトンを高い選択性で認識するセンサの実現を目指して、h-WO_3 NWの水熱合成において、Phとキャッピング剤として機能する硫酸塩（特に硫酸アンモニウム）によるNWの形態や結晶構造の変化を調べることを目的とした。