「扇」制作体験による工学教育の試み: 日本の伝統技法から学ぶ「ものづくり」

摘要

平安時代に生まれた日本の扇はあらゆる場面で使われ，今尚現存する稀有な造形である.その1000年以上の歴史は，イノベーションやグローバル化を繰り返し室町時代や幕末から明治にかけて国内ばかりでなく海外への文化的発信•産業としての役割も果たしてきた.しかし現在では社会環境による生活スタィルの変化や空調機器の普及による需要の低下，低価格に伴う質の低下などにより，扇の価値が失われつつある.江戸時代の扇には，日本の「ものづくり」の原点である「自然素材」の加工技術およびその応用，「芸術的独創性」がうまく融合したものが多く見られる.そこで工学教育の中に「扇」制作を取り入れ，日本の伝統技法・歴史の変遷・文化に触れることで「ものづくり」を深く理解することを目的とした実習授業を試行した.