鑑賞後の環境が鑑賞したものの記憶に与える影響についての研究: 美術館における印象的展示計画に向けて

摘要

以上の結果から、鑑賞したものが同じであっても、直後に行う行為によって、印象の深さが異なるという仮説が検証された。静かに座って休憩をとる時やゆっくり歩く時には、新たな情報インプットが少なく、鑑賞したものを無意識的に想起する時間が持てたのかもしれない。一方で、例え気軽な日常的話す情報であっても、鑑賞後に続けて新たな情報をインプットしてしまうと、鑑賞したものに対する印象に影響を及ぼしてしまうものと考えられる。また、鑑賞後に緊張状態をもたらす行為より、リラックス状態をもたらす行為を行うことが記憶を保持し印象を深める助けになるのではないかと考えられる。今回の結果から考えると、次々と展示を見せて新たな情報を提供するのではなく、所々展示をしない部分を設けることも重要であることが予想される。例えば、静かに歩いたり、留まったりする「非展示空間」を設けることが重要であるかもしれない。また、日常会話が発生しやすい「レストランやカフェ」、新たな情報をインプットしやすい「グッズショップ」などの施設は、展示空間の直後ではなく、一定の距離をおいて計画した方が、鑑賞したものの印象を深める時間が与えられると考えられる。