アサガオの全ゲノム解析による低線量環境放射線の影響調査

摘要

原子力発電所の事故により放出された放射性物質による低線量環境放射線の陸上植物への長期的影響では、主として半減期が約30 年と長いCs-137 からのβ線（内部被曝）やγ線（外部被曝）により引き起こされる酸化的ストレスとDNA 損傷、そしてそれによる植物の形態や機能への影響が想定される。DNA に放射線が当たると、当たった量に応じてDNA の一部が損傷することがある。DNA を傷つける原因は、放射線以外にも環境中の化学物質、活性酸素等様々なものがあり、1 日1 細胞当たり、1 万から100 万箇所の頻度で損傷を受けていると言われている。細胞にはDNA 損傷を修復する機能があり、DNA が損傷を受けると修復酵素がDNA の損傷を修復するが、このとき、修復が不完全だとDNA 変異が起こり、ゲノム情報に影響を及ぼすことがある。国立環境研究所では2014 年から、福島県内の帰還困難区域内でアサガオを栽培し、低線量環境放射線の生化学的影響?遺伝的影響を調査している。今回、放射線が植物のゲノム情報に及ぼす影響を調査するため、浪江町で2015 年に栽培したアサガオ品種ムラサキの種子を用い、次世代シークエンサーによる全ゲノムシークエンス解析を行って環境影響評価の手法の確立を試みたので報告する。