逆動力学解析に基づく介護者の起き上がり支援動作によって生じる腰痛原因の解明:複数の介護者の動作

摘要

厚生労働省によれば、2016年1月の要介護·要支援認定者は全国618.3万人であり，2042年まで高齢者はさらに増加し続け介護·要支援認定者数の大幅な増加が予測されている。これまで介護士の介護技術の取得は経験に基づく実技指導によってその動作を学ぶものが多く，これら介護動作をデータとして数値化したものには例がない。筆者らは，近年，映画やゲームなどのアミューズメント分野において積極的に用いられているモーションキヤプチャデバイス等の3次元計測技術に注目している。これらは計測した人間の様々な動作を3次元CG動画像として，あらゆる視点からの映像として再現することが出来るだけではない。動作データとともにフォースプレート等を用いて被験者の足裏にかかる反力を計測し，逆動力学解析を適用することにより，人体モデルに基づく内部の各筋肉の出力を推定することが出来る。すなわち，介護技術の教育ツールとしての3次元CG動画像というディジタル虎の巻作成が可能であり介護教育に貢献できる。さらに，定量的数値解析により身体への負担が少ない介護動作へと技術を発展させることが出来，介護者の健康保持に貢献できる。また，本技術は各居住地域の暮らし易さを定量化したGISコンテンツ作成にも役立つ。例えば，介護技術の数値化を実現することで，従来，要介護·要支援認定者数や介護施設や介護士の数を用いて大まかにしか推定できなかったこれらの数値をより詳細に扱うことが可能となる。本稿の1章では本研究の背景と目的について詳細に述べた。2章では，使用したモーションキャプチャデバイスとフォースプレート等計測装置の概要を述べる。また，計測用簡易ベッドと等身大のマネキンを用いて用意した実験環境についても述べる。さらに，解析ソフトウェアを用いて作成される3次元CG動画像と逆動力学解析手法によって推定される人体モデルにおける筋張力について述べる。3章では複数の介護士を被験者として動作を計測し，これらの動作とその逆動力学解析の結果を比較して考察を行う。第4章では，本稿における取り組みの総括を述べる。