後ウマイヤ朝の建築様式についての一考察

摘要

7 世紀におけるイスラーム教の新興と、その後の地中海方面への勢力拡大は、東・西ローマ帝国及びヨーロッパ諸国に脅威を与えた反面、芸術文化の相互影響及び競合に貢献したことは誰しもが認めるところであろう。しかし、中世におけるキリスト教美術とイスラーム教美術が具体的にどのような関係性にあったかを知ろうとして研究書を紐解いてみても、非実証的な論述のみしか存在しないことに落胆する。確かに、古代ローマ帝国の元に束ねられていた属州が、帝国滅亡後、覇権争いを繰り返す動乱の時代において、交流と断絶を頻繁に繰り返す文化間の美術上の影響関係を見極めるのは至難の業である。しかし、中世の地中海文明圏の建築史を研究する上で、この問いは蔑ろにはできない根本的なものである。