脳脊髄液中のアストログリア細胞やSchwann細胞に,酸性たんぱく質として存在するS-100βは,中枢神経の障害で髄液中や血中で濃度が上昇することが知られている.一方,血清中のS-100β濃度は脳細胞障害の指標として頭部外傷の重症度との関係などの報告が散見されており,血清S-100β値は,脳障害や脳疾患の予後を予測する因子として期待されているが,まだ確実なものではない.本研究の目的は,血清S-100β値が,脳障害患者の転帰を予測するマーカーとして有用であるかを,脳波検査,頭部CT検査との関連性と生命予後について検討することである.対象は,2003~2005年までに東京女子医科大学救命救急センターICUに意識障害状態で搬送され,ICUに入室した,Glasgow Coma Scale(GCS)13点以下の脳障害患者82例とした.薬物中毒や,ICU入室中,脳障害以外の原因で死亡した症例は除外した.内訳は男性54例,女性28例であった.これらの対象症例に対し,ICU入室時より7日間あるいは退室時まで連日,血清S-100β濃度をHuman S-100βELISAキットを用いて測定した.同時に測定した脳波,頭部CTによる脳障害の重症度および転帰について検討した.ICU退室時の転帰は生存例が50例,死亡が32例であった.血清S-100β濃度は生存例の方が死亡例と比較してICU入室日から有意に低値であった.その後も生存例では血清S-100β濃度は低下する傾向があったが,死亡例では高値で推移した.血清S-100β濃度と脳波,頭部CT検査の異常度とも相関が認められた.特に脳波においては,脳波上,高度の異常群では,他の群と比較して,血清S-100β値が上昇していた.血清S-100βは脳波異常やCT画像上の変化との関連性が強かった.血清S-100β値は脳損傷の程度や,脳障害が原因で死亡した症例において,予後判定の指標になる可能性が示唆された.
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