ハイパー空間における学習履歴情報を用いた自己調整支援に関する研究

摘要

近年，Web 利用の普及により主体的に学ぶことができる場が拡がりつつある．例えば，大学の教育・研究活動では学習に役立つWeb 上のリソースを活用して主体的に調べ学習を行う機会が増えてきている．主体的な学習では，リソースの内容を学ぶだけでなく，自分の学習プロセスを観察・制御することが不可欠である．これは，自己調整活動と呼ばれ，学習効果・効率を高める上で非常に重要な役割を担う．本研究では，これまでハイパー空間を提供するWeb 上のリソース（学習リソース），特に学習向けに構造化されていないような非構造（unstructured）な空間を有するリソースを用いた主体的な調べ学習を対象として，自己調整の支援について検討してきた．通常，ハイパー空間はその構成要素であるページがハイパーリンクによって連結された構造を有し，学習者は学習目的に応じてこの空間内を主体的にナビゲーションしながら，ページごとに学んだ内容を関係づけて知識を構築することができる．一方，非構造なWeb リソースにおける主体的調べ学習を効果的，効率的に行うためには，自己調整活動としてナビゲーションの実施前に学習目的を達成する上で有用と考えられるページを選択して，学ぶべきページの系列（ナビゲーションパス）の見通しを立てること（ナビゲーションプランニング）とプランを実行して知識構築プロセスの観察，見直しを行い，必要に応じて学んだ知識を再構成すること（リフレクション）が不可欠である．しかしナビゲーションプランニングおよびリフレクションは，ナビゲーションや知識構築と同時進行で行われるため，学習者にとって認知的負荷が高い作業である．このような問題に対して，関連研究ではハイパー空間地図などによって学習リソースの概要情報を提供する支援手法が提案されている．また，こうした従来の支援手法を改善して概要情報をもとに学習者自身がナビゲーションプランニングを具体化する場を提供するシステムPlanning Assistant（PA と略す）やAdaptive PA（APA）を，リフレクションを具体化する場を提供するシステムInteractive history（IH と略す）が開発されてきた．しかしながら，調べ学習の初心者にとっては，ハイパー空間地図のような概要情報が提供されても学習目的達成のためにどのページを学ぶべきかを見極めることが難しく，ナビゲーションパスの見通しを立てることができないことがしばしば起こる．また，リフレクションでは，学習プロセスや学習結果の不十分さ・不適切さに気づかぬまま，学習を終えてしまうことがある．さらに，こうした学習の困難さに加えて，非構造なリソースの場合には事前に学習のシナリオや正解となるような学習結果を準備することができないため，調べ学習プロセスをガイドすることも困難である．そこで，本研究では非構造なWeb リソースを調べ学習の対象とした自己調整支援手法を提案する．特に，学習プロセスの履歴情報を用いて，調べ学習初心者にとって認知的負荷の高いといわれる認知的プロセスを具体化する場を与え，学習者の学習プロセスを活性化する手法を開発する．本研究では負荷の高い認知的プロセスとしてナビゲーションプランニングおよびリフレクションに着目している．学習の不十分さ・不適切さにいかに気づかせるかというリフレクションの問題点に対して，本研究では学習プロセス履歴の比較による気づき提示手法を提案した．ここでは，知識構築を伴うナビゲーションプロセスを履歴として明確に表現可能なInteractive History（IH）をベースとした履歴比較を行っている．本研究では，提案した履歴比較手法によって，新たなページ間の関係についての気づきを与える学習の深め，そしてまだ学んでいない新たなページについての気づきを与える学習の広めという，二つの気づきを与える手法を実現し，学習者が学習の不十分さ・不適切さに気づくようなリフレクション支援を実現し，実験の結果有用性を確認した．どのように学べばよいかというナビゲーションパスの見通しが立てづらいというナビゲーションプランニングの問題点に対しては，学習目標を達成する上で有用なページやリンクを他の学習者の履歴群から履歴マイニングによって同定し，ハイパー空間地図上に強調表示したGuided Map（GM）を提供することでナビゲーションプランニングの足場を築く手法を提案した．また，ケーススタディの結果，本支援手法におけるGM 生成の妥当性，および生成されたGMが学習に役立つプランの作成に寄与する可能性が示唆された