ヒトと魚における周期的視覚刺激に対する予測性眼球運動の獲得

摘要

眼球運動は生物の生存上欠くことのできない重要な運動制御機構である．視運動性眼球運動（OKR）は，視界全体が同一方向に動いた際，それと同方向に眼球を動かす反射運動であり，網膜像のプレを抑え視界の安定化を実現している．「眼球速度／視界の動き（視覚刺激）速度」で定義されるOKRゲインは通常1以下となり，視覚刺激を繰り返し与えることによりOKRゲインが1に近づくことがホ乳類や魚類で示されている．また金魚では，左右方向交互に一定周期Tで矩形波状速度刺激を与え続けると，その後より長い周期の視覚刺激を与えた場合，OKRゲインが左右各半周期においてT／2付近から急速に減少しはじめる周期同調（Period tuning：PT）という現象が報告されている．この現象は，視覚刺激方向の切り替わりタイミングを予測し，視界のプレを少なくするための運動学習の一種と考えられる．また，小脳切除によりこの学習が生じなくなることから，小脳における運動学習機構を理解する上で有効なモデルシステムと考えられる．本研究では，PTの性質を調べるため，金魚，コイ，ゼブラフィッシュ，メダカ，ヒトを用い，種ならびに個体間のPTを比較すると同時に，これまでの知見からPTと深い関わりがあると推測される視運動性後眼振（OKAN）を評価した．その結果，OKANが生じない被験体ではPTが生じず，またPTのチューニング度合いはOKANの持続時間と正の相関があることが示された．