視覚特性を考慮した薄明視環境の画像シミュレーションとその評価

摘要

我々人間は非常に広い照度レベルに対して物を見ることができる．直射日光下で約10万ルクス（lx），月明かりだけの夜間なら約0.001 lxと考えると，10~8の広い照度レベルに対して視覚系は対応できることになる．この調節機能は，網膜にある錐体と桿体の2種類の光受容細胞の働きによるところが大きい．錐体には長·中·短波長のそれぞれに感度のピークを持つＬ錐体·Ｍ錐体·Ｓ錐体があり，これらの応答の比率に基づき多彩な色を知覚することができる．これに対し桿体は1種類であり色知覚を生起し得ないが，非常に高感度であり，光子数個で反応するといわれている．照度レベルが下がると，色知覚に関与する錐体の働きが低下し，感度が高く暗いところで働くことが出来る桿体の影響が大きくなる．人間の知覚可能な照度範囲は順応レベルの違いにより，10 lx以上を明所視，0.01 lx以下を暗所視，その中間を薄明視と便宜的に分けられるが，薄明視領域ではこれら2種類の視細胞が混在し，その寄与が照度に依存して変化するため，色の見えが複雑になるといわれている．