DNAマイクロアレイ法による多環芳香族炭化水素処理ラット肺胞マクロファージの遺伝子発現の網羅的解析

摘要

有害化学物質による大気汚染は，呼吸にともない鼻腔，気管支，肺などの呼吸器系に傷害を引き起こし，ディーゼル排出ガスにおいても，喘息，花粉症などアレルギ性疾患のリスクになりうることが示唆されている．このように，呼吸器系組織は絶えず環境汚染物質に暴露され，ときには疾患に至る場合がある．呼吸器系組織の中で，特に吸入された空気と接する上皮細胞や肺胞マクロファージなどは傷害を受ける主要な細胞であり，個々の細胞単位での影響評価は疾患を予測するうえで重要な情報源となる．従来の毒性物質の影響評価は病理学，生理学，生化学的指標に基づく評価が主流であるが，最近，分子生物学の分野において急成長を遂げた遺伝子発現解析法が取り入れられる方向へと推移している．遺伝子発現とはDNAから転写因子の機能によって伝令RNA(mRNA)が合成され（転写），その配列情報を元にタンパク質が合成される（翻訳）一連の過程において，mRNAが合成される現象のことを指す（図1）．ヒトのDNA中にはこのようなmRNAに転写される領域が約3万存在する．