人類の歴史からみた“食”と宗教のかかわり：第20回 第16章 食糧危機を救う世界市民育成の地理学

摘要

現在の食糧問題は人間のライフスタイル（生き方）によってもたらされたともいえよう．それゆえ，根本的解決は人間のライフスタイルを変える以外にない．つまり，「私の祖国は世界です」といえるような正しき人格をもった“世界市民”をつくる以外にないであろう．戦時中，日本の軍国主義と戦い獄死したある信念の大教育者は，明治36年に発刊された自著（地理学）において，「人とは郷土に住みながらもその生命·生活は世界に支えられている存在である」ということを述べている．そこでは，「今ここに住みながらも生命空間は世界に広がっているのが人間であり，それを自覚できてはじめて正しき歩みができる」という．そして「地理学には人格の形成を行う使命があり，郷土の精細な観察により正しき人格形成を行う視点」を述べている．すなわち，人は郷土との交渉によりその生命空間を世界に広げることができるというのである．郷土とは今いる場所，心身への直接影響区域といえる．人間が外界（郷土）と深厚な交渉をなすことによって生命空間を世界に広げ正しき歩みを行い，それら個人の集合により平和な世界がつくられていくことを述べている．すなわち，地理学による人間の育成を通じての価値創造を教えたのである．食料危機の解決には人間をつくること，人格をつくることが重要であるというのである．本稿では，この書物をひもときながら食糧問題を解決する方途を探っていきたい．