高速進展き裂の分岐に及ぼす試験片形状と負荷形式の影響

摘要

脆性材料が破壊する際には，数百m/sの高速で進展するき裂が発生する．このようなき裂は，き裂速度が十分速い場合，き裂先端が2つ以上に分岐することが知られている．き裂先端の分岐は，高速進展き裂の特徴的な挙動の一つであり，これまで多くの研究者によって調べられてきた．しかし，分岐の力学的機構は現在においても完全には理解されていない．高速進展き裂の分岐に関する実験的研究として，鈴木らは一様引張負荷試験片中の高速進展き裂の分岐の前後におけるエネルギー解放率を測定している．その結果，母き裂のき裂開口変位(COD)から測定されたエネルギー解放率は分岐の瞬間を挟hで連続的に変化していることが示されている．また，エネルギー解放率の連続性は分岐の3次元性と関係していることを示している．分岐後のき裂のエネルギー解放率は，2つの分岐き裂のエネルギー解放率の和で与えられる．しかし，一様引張負荷試験片中における分岐き裂においては2つの分岐き裂間の距離が小さく，き裂間の相互作用が大きい．そのため，分岐き裂のCODからエネルギー解放率を測定することはできない．この問題を避けるため，鈴木らは，分岐き裂のエネルギー解放率を母き裂のCODから測定している．高速進展き裂の分岐に関する研究では，一様引張負荷試験片だけではなく，CT試験片のような負荷形式も用いられている．こうした試験片では，負荷形式の違いにより，分岐き裂間の距離が大きくなる．そのため，き裂間の相互作用が小さく，分岐き裂のCODから分岐後のエネルギー解放率を測定できることが期待される．上記の背景から本研究では，CT試験片に似たピン負荷試験片を用い，2つの分岐き裂間の距離が次第に大きくなるような高速分岐き裂を発生させる．そして，分岐き裂のCODから分岐直後のエネルギー解放率を測定し，その結果を，一様負荷試験片の結果と比較する．