鉄道用レールの疲労損傷の破壊力学的解析(I)：レールの曲げ応力による'The kidney-shaped fatigue crack'の進展～（上）

摘要

The kidney-Shaped fatigue crack（腎臓型疲労亀裂）はTache Ovaleとも呼ばれ，1960～1990年代のレールの破壊の多くはこの形態の疲労破壊が原因であった．この亀裂は，レール頭部の内部に存在する介在物などの欠陥を起点として楕円形状に進展し，レールの破断をもたらす損傷である.2000年に英国ハットフィールドで発生した高速鉄道の脱線事故は，レール頭部表面から発生した‘Head checking’と呼ばれる金属疲労が原因であったが，当時の英国鉄道会社の主なレール損傷対策はこのTache ovale型疲労亀裂であった．レール用鋼の清浄化が進むとともに，このような内部欠陥を起点とする疲労破壊は減少したが，現在でも無視できない損傷である．さて，このレール頭部の疲労亀裂の進展には車両の通過に伴うレールの曲げ応力が大きな影響を及ぼす．これまでに，このレールの曲げ応力については解析手法とその結果を述べた．本報ではレールの曲げ応力が疲労亀裂の進展に及ぼす影響について，破壊力学的解析手法とその結果について述べる．とくに，Kidney-shaped fatigue crackはレール垂直面に対して傾斜して進展することが知られており，レール頭部の残留応力分布がその亀裂の進展速度に及ぼす影響はこれまでほとhど明らかにされていない．破壊力学を用いた複雑な式による計算が必要である．ここではその手法の説明とその計算結果を示す．残留応力分布が疲労亀裂の発生限界や進展速度に及ぼす影響は極めて大きく，残留応力分布の精密な測定方法の開発と実態の正確な把握が必要である．