「海洋生物の越境移入と沿岸生態系の攪乱」特集によせて

摘要

人類は文明の成立以来，永きにわたって農業·畜産のために様々な植物や動物を大陸を越えて，あるいは大洋を越えて越境移人させてきた。 したがって，外来生物の拡散とそれらの生物による生態系の攪乱は，人類にとって新たな問題ではない。 実際，東アジアに広がった稲作やヨーロッパの牧畜は多くの国の植生や景観を大きく変えてきた。それにもかかわらず，最近になって急にこの問題がクローズアップされてきたのは，経済活動のグローバル化や交通手段の高速化により，その移入（外來生物の意図的，非意図的な導入）が，急激に増加し，また広域化してきたことと，都市化や開発などによって外来生物を受け入れる側の生態系が脆弱になって，その拡大や日常生活への影響が以前にも増して深刻になってきたためであろう。 また，地球規模の温暖化などの気候変動にともなう生態系の変化から，その影響の範関がこれまで以上に拡大することが危惧される。