NMR(核磁気共鳴,Nuclear Magnetic Resonance)は,有機化合物の構造決定に必須の手段となっている.この場合,有機化合物を重水素化溶媒に溶かして測定を行う.一方,固体試料を対象とした固体NMR測定は古くから行われてはいるがそれほと普及しているとは言い難い状況にある.固体試料のNMRスペクトルはシグナルの線幅が広く,測定·解析にある程度の知識と経験が必要である.しかしながら,他の手法では得られない情報が得られるため,徐々にその応用分野が拡大しつつある.NMRでは,観測する原子近傍の局所構造に関する情報が得られる.回折法が長周期構造を調べることとよい対比関係にある.このため,固体NMRでは測定対象が結晶質であろうと非晶質であろうと測定自体には影響しない.原子スケールでの局所構造に関する情報が得られるが,空間分解能が低いため試料全体の重ね合わせもしくは平均的な情報となる.固体NMRによる金属水素化物の研究は古くから行われており,水素のサイト,拡散挙動,電子状態などについて有益な知見が得られている.ここでは,我々の研究室で得られた結果を中心にして,固体NMRを用いた金属水素化物中における水素のサイトや拡散挙動の研究を紹介したい.
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