ツタンカーメン前夜の美術材料－棺に見る金,銀と青顔料

摘要

アメンホテップ4世は，それまで南のテーべ(現在のルクソール)にあった都を，中部のアマルナに移し，自らもアクエンアテンと改名し，宗教改革，美術改革など，斬新な文化を取り入れようと獅子奮迅の働きをした．BC 1350年頃のことである．宗教改革は本稿の主題ではないのでここでは記さない．しかし，形式的美術から写実的美術への改革のためには，彼は美術材料にまで気を使い，新しい絵の具(顔料)の発明までも，この地アマルナで行わせていた．そのためには，多くの工房も作った．それ以前のエジプトには見られなかった，生き生きとした芸術家，科学者の活躍が目に浮かぶようだしかし，美術的観点からは甚だ残念なことだが，この改革はわずか20年ほどで頓挫し，年少のツタンカーテン(後にツタンカーメンと改名)が次の王(ファラオ)に指名され，都をさらに北のメンフィスへと移した．しかし，アマルナ美術の流れは，嬉しいことには，少しは残った．そして，それがツタンカーメンの時代に開花したと思われる．