鉄酸化バクテリァが関与した熱水環境の鉄酸化堆積物

摘要

鉄酸化堆積物の多くが海水の2価の溶存鉄を酸化してエネルギーを獲得する鉄酸化バクテリアによって形成していることが明らかになってきた.鉄酸化バクテリアは体外に特徴的な形態の有機物を排出し,その周りに水酸化鉄を吸着させて鉄沈殿を促進する働きがあり,生物鉱化作用を行なっている.現世の鉄に富む熱水域は世界中に分布しており,そこでは鉄酸化バクテリア由来のマット状の水酸化鉄堆積物が広がっている.現世における異なる熱水活動域での鉄酸化物の形態や鉄酸化バクテリアの生態は,先カンパリア時代に発達した縞状鉄鉱層などの鉄鉱層の形成メカニズムを理解する鍵になる.縞状鉄鉱層の形成には酸素濃度の上昇などの大規模な環境変動が起因しているが,近年の研究は縞状鉄鉱層の形成には鉄酸化バクテリアの影響も示唆されている.1細胞あたり1.1 × 10~(-11) mol/yearの鉄酸化速度を想定すると,縞状鉄鉱層を形成するには5.7 x 10~4 cell/cm~3程度の鉄酸化バクテリアが存在してすれば良い.初生的に生成した水酸化鉄は時間の経過とともにより安定な酸化鉄鉱物へと転移する.鉄酸化クテリアは水酸化鉄を吸着する生物鉱化作用を行うことで,鉄鉱層形成など地球史上で重要な役割を果たしていた可能性がある.