特殊な表現型に着目した薬理遺伝学

摘要

要約：常染色体劣性若年性パ一キンソニズム（Autosomal Recessive Juvenile Parkinsonism; ARJP)では，抑うつなどの精神症伏のほか，自殺企図等の行動的異常を頻度高く認めることは当初から報告されていたが，遺伝子診断でPARK2(Parkin)遺伝子に変異の存在を確認されたARJP病患者ではほぼ全例（24例中23例）に，うつ病，パラノイア，精神病状態，パニック発作，神経性食欲不振症ゃ自傷自殺企図などの精神症状が多彩に出現することが明らかにされている.さらに，多くの例がDopamine Dysregulation Syndrome (DDS)を発生してドーバミン補充薬物依存症を引き起こし，さらにはDDSから生じたと考えられる種々の精神症状（情緒不安定，ギヤンブル依存，性的欲望亢進など）をも引き起こすことが最近になって確認されている.これらの事実から，「うつ。不安·自殺企図」に関与する病態基盤としての未熟なパーソナリティーの形成やDDSの基盤として考えられる報酬系の脆弱性にParkin遺伝子変異が関わつている可能性を，ARJPにみられる薬理学的特性を例に考察した.また，その他の臨床薬理学的特性としての薬物副作用の例として，バルプロ酸による高アンモニア血症ゃ抗精神病薬による悪性症候群を例にとり，その基盤を考える上での分子遺伝学的研究の現状を報告した.