慢性ストレス後に生じるNE-CRHシステムの遅延的感受性亢進

摘要

要約：Norepinephrine (NE)とcorticotropin-releasing hormone (CRH) ニューロン機能は，ストレス応答に重要な役割を果たしている.聴性驚愕反応(ASR)は学習や記憶，感情や行動の制御に関する脳メカニズムを調べるために用いられる評価尺度であり，扁桃体中心核のCRH ニューロンの活性化によって増強される.過去に我々は，慢性変動ストレス(CVS)処置後1日目において，footshockによるASR (f-ASR)増強の亢進を報告した. 本研究ではCVS処置後長期に生じるNE-CRHシステムの可塑的変化を調べるため，CVS処置後15日目までASR を測定し，その生物学的背景を知るためf-ASR増強に特異的に作用する薬物を投与した.CVS処置後のf-ASR増強の亢進はCVS処置後15日目も認められ，増強の持続時間とピーク潜時の延長というf-ASR増強の遅延的感受性亢進が認められた.CRH-R1阻害薬，alprazolam, prazosin, propranolol単回投与はf-ASR増強を抑制し， desipramine, maprotiline, paroxetine反復投与はCVS処置後15日目にみられたf-ASR増強の遅延的感受性亢進を抑制した.本結果よりCVS処置後に生じる遅延的感受性亢進はNE-CRHの遅延的制御不全を示唆し，ストレス曝露に遅れて発症するうつ病やposttraumatic stress disorderの病態形成の機序に関与する可能性がある.