生活習慣病と眼　生活習慣病と抗加齢眼科学レニンーアンジオテンシン系と炎症制御による網脈絡膜病態の是正

摘要

生活習慣病では，内臓肥満から長期の経過にわたって全身に血管症が起こり，脳·心·腎·眼などの主要臓器の障害により寿命が短縮する．生活習慣病により老化が加速する進行過程では，最上流の内臓肥満から最下流の臓器障害まで複数の病態に循環·組織レニンーアンジオテンシン系（RAS）が関与することが分かってきた．失明原因として重要な糖尿病網膜症や加齢黄斑変性は，生活習慣病が進行の危険因子であり，それぞれ網膜·脈絡膜血管新生を合併する血管症である．まず我々は，糖尿病網膜症や脈絡膜血管新生では，組織RASが活性化することによりアンジオテンシン1型受容体（AT1－R）シグナルを介してvascular endothelial growth factor（VEGF），intercellular adhesion moIecule（ICAM）－1，monocyte chemotactic protein（M－CP）－1などの炎症関連分子が血管病態に関与することを見出した．また，糖尿病網膜症において神経機能が低下するメカニズムとして，ATl－Rシグナルによりシナプス機能蛋白質の分解が亢進することを示した．さらに我々は，レニンの単なる不活性型前駆体と信じられていたプロレニンの受容体（（プロ）レニン受容体）が眼に存在することを示した．（プロ）レニン受容体はプロレニンと結合すると細胞内シグナルと組織RASを同時に活性化させ，この新しい病態システムは受容体随伴プロレニン系（RAPS）と呼ばれる．我々は，脈絡膜血管新生がRA－PSの制御を受けており，特にVEGFとMCP－1が（プロ）レニン受容体シグナルとAT1－Rシグナルによって二重に調節されることを発見した．次に，RASの下流で制御される炎症関連分子群と網脈絡膜病態が，自然界の食物成分により是正される可能性について報告した．緑黄色野菜に豊富なルティン，魚油由来のomega－3不飽和脂肪酸エイコサペンタエン酸，サケやエビの赤色成分アスタキサンチンを用いて網脈絡膜病態への影響を検討した．これらの機能性食品因子は，VEGF，ICAM-1，MCP－1などの炎症関連分子の発現抑制を介して抗血管新生作用や抗炎症作用を発揮することが明らかとなった．生活習慣病を背景因子とする眼科疾患，加齢黄斑変性と糖尿病網膜症に対する予防医学は，近年ますます重要視されている．本総説では，抗加齢眼科学由アプローチとしてRAS抑制薬や機能性食品因子による早期介入の妥当性について生物学的根拠を示した.