下肢整形外科手術後の静脈血栓塞栓症予防におけるフォンダパリヌクスナトリウムの費用対効果の検討

摘要

本邦における人工膝関節全置換術（TKR），人工股関節全置換術（THR），大腿骨骨折手術（HFS）後の静脈血栓塞栓症（VTE）に対する予防，治療経過を考慮した決断樹モデルを構築し，フォンダパリヌクスナトリウム（FPX）による予防の費用対効果を医療費支払者および医療機関の立場から検討した。 分析の時間範囲は，手術当日から最長で12週間とした。 期待費用は直接費用（予防費用ならびに大出血処置費用，症候性VTE治療費用）のみ，期待効果は未治療生存率として，FPX群の予防非実施群に対する増分費用対効果比（ICER）を算出した。 また，FPXの臨床的アウトカムの発生についてもモデルによるシミュレーションを行った。 TKR，THR，HFSにおけるICER（末治療生存者1人あたりの増分費用）は，それぞれ，約686，000円，1，379，000円，1，397，000円であった。また，FPX群は予防非実施群と比較して，TKR，THR，HFS後の症候性VTE発生を1000人の患者あたり，それぞれ，39．6，22．3，22．1人予防し，症候性VTE治療による大出血の発生も予防した。 なお，FPX関連大出血の発生を考慮すると，大出血の発生はFPX群の方が多かった。 さらに，症候性VTE発症に伴う入院延長が短縮された。 本分析結果より，TKR，THR，HFS後にFPXを適切に使用した場合，有害事象の発現は高率ではなく，医療費支払者の立場から受容できる効率的なVTE予防を行うことができると考えられる。 また，医療検閲の立場からは医療資源の配分が適切に行えるというメリットが考えられる。