欧米における農業ロボットの研究開発

摘要

世界人口は2019年で77億人,2030年には86億人，2050年には98億人に達し，その時点での食料需要は現在の50%以上増との推計があり，今後世界の食料需給バランスは崩れ，食料不足になるとされている（世界食糧サミット，2008年6月）。また，20世紀の農業技術は過度に生産性向上を目指し，機械を導入·大型化し，化学肥料や薬剤を大量に消費するといった投入エネルギーの増大を基盤として発展してきた。しかし，作業効率や生産性は向上したものの，農地やその周辺に与える環境負荷が大きく，環境を犠牲にする結果となった。特に大規模農業を実践している欧米では，一般に圃場レベルでは作物の生育状態を空間的に一様とみなして農薬·化学肥料を均一投入する。その結果，農薬·化学肥料の農地残留，河川への流出を引き起こし，環境に与える影響が問題になっている。この問題に対処するためには精密で適切な農作業を実践することが要求されるが，少人数で大型機械の使用を前提とした農作業体系では，その実現は困難である。他方，農業における労働力不足は，先進諸国及び新興国が抱える共通の問題である。農業従事者の減少，特に技術を有した人材の不足が問題になっており，国際的に人に代 わるロボットのニーズが高まっている。とりわけ労働力不足の解消に有効なトラクタなど農業機械の自動化·ロボット化が先行しており，1990年頃から研究開発が始まった。最近は農薬·肥料散布などの管理作業，圃場見回り作業，収穫作業ができる単機能ロボットの開発が活発である。現在農業ロボットは，米国·欧州·中国·韓国·ブラジルなど世界各国で研究開発中である。本稿では，特に欧米における農業ロボット技術開発の取り組みについて解説したい。