国際単位系（SI）の定義改定に至った経緯とその影響について

摘要

実社会におけるSIの利便性を確保しつつ，基礎物理定数による定義の普遍性を取り入れるために，全てのSI基本単位を基礎物理定数や普遍定数によって定義しようとする動きは1970年代からあった。しかし，これまではIPKの質量安定性を超える精度でプランク定数hやアボガドロ定数N_Aを測ることができなかったため，キログラムの定義改定は長い間実現しなかった。2012年の科学誌Natureによれば，キログラムの定義改定は重力波検出などと並hで，物理学において解決できていない五つの重要課題の一つに挙げられていた。しかし最近ようやく，IPKの質量安定性を超える精度でhやN_Aを測定することが可能になり，キログラム（kg），アンペア（A），ケルビン（K），モル（mol）の定義をそれぞれプランク定数及電気素量e，ボルツマン定数k，アボガドロ定数N_Aを用いて同時に改定することが採択された。本稿では，1889年以来変わることのなかったキログラムの定義を中心に，SI基本単位の定義が改定されるに至った経緯について解説し，新しい定義がもたらすが意義とその影響について述べる。