製茶の研究……手揉みから機械へ第(13)回

摘要

(P)「狭山時報」第3巻第4号(昭和3年、1928年)「偶感」桑原治郎右衛門「人間が働くと云う事は直接か間接か有形か無形か、多少儲かることでなければなりませh。儲けのない産業などは如何に奨励しても、到底発達するものではありませぬ。同じ儲けでも間接の事よりは直接の利益は、少なくても実行され易い。昔から末の百より今の五十と云う通りです。殊に世知辛い世の中では一層そうした事が多い。末には取り返しの付かぬ様になる心配はあっても、一時の収穫を増すために、硬葉摘をしたり、鋏摘荒摘をすると差し当たり得である。多くが其方に進hで行くものです。……昔は茶の木の栽培には赤土の小石混じりの所などが良いなどとして居りました。之は茶の品質は無論良いが、今日の所謂金儲け主義から云うと却って黒壚土などの方が喜ばれる。赤土の茶は香気も味も水色も力があって、形も緊つて良いが、商い物としては、色が良くないから見ばえがせず、売るのに努力を要するが、一度使って見た後は、取引をされるものです。赤土の茶園では肥料を施しても枝葉が増えず、只上長伸育のみが良く、雑草が生え易く耕作に手数を要するが、黒壚土の茶は之に反して力のないお茶ではあるが、色や形が優しく出来る為、美人と同じで売れ口が多く、自然売れ足が早い。殊に近頃一層そうしたI寸見の良いものが喜ばれる。其れ故にお茶の製造なども、茶は飲むものであるからと、やかましく内容本位の製造をしたものよりは、却って一寸見た所の良い、形と鮮やかな色をしているものの方が、足が早い様です。....世の中の人が多くは見掛けばかりのお茶を要求すると云うた所で、夜店を素見した時の気分と家庭に帰った時の気持ちが違う様に、此様な真の味のあるお茶も無くてはならぬものであるが、世の中の仕事は良し悪しを余りに考えず、兎角流行の流れに陥り易いもので、自分の立場を忘れて折角の特徴を失うものがあります。例えば、狭山に居って静岡風のお茶を造つたり、京都に居て静岡茶を真似たりすることは誠に損なやり方であると思います。静岡県は茶の生産経済の上で何れの県より進hで罟り、狭山や宇治、朝宮は品質の点から見て静岡茶より数等上ありますのに、近頃驚く事には滋賀ゃ京都、狭山等で静岡風のお茶を盛hに製造し、静岡のお茶、三重のお茶が盛hに京都風の茶-.-変わって来る傾向のあることです。之はどうした為だろうか。果して之が如何なる結果になるでしようか？」