旅の気象人類学: 5年間の世界自転車旅行の経験から考える

摘要

本発表の目的は、旅と気象と現地文化の関係性を人類学的に考察することにある。発表者は、1988年4月から1990年4月までの2年1力月間、青年海外協力隊に参加し、パプア二 ユーギニァの東ハイランド州ゴロ力に赴任してスポーツ指導をおこなってきた。また、帰国後の1993年5月から1998年5月までの5年1力月間、自転車で北米、南米、ョ 一口ッ ノ、° 、アフリカ、オーストラリァの五大陸を走り、それらの最高峰に登頂し、南北両極点に立ってきた。 これらの経験を基盤に、現在は文化人類学を専門にして、アジア各国とアフリカ、ケニアでフィール ドワークをおこなっている。本発表では、こうした発表者自身の「移動」の経験を起点として、気象 と現地文化の関係性について考えてみたい。最初に取り上げるのは、パプアニューギニァでの経験で ある。当該国でつかわれている通貨は「キナ」とレヽい、これには紙幣と硬貨がある。しカゝし、それと 平行して、発表者が生活をしていた1988年当時、現地の特に沿岸部では貝殻が通貨として「普通」に 流通していた。現地語で「タブ」と呼ばれているこの通貨は、現在でも使われていることが人類学者 によって報告されている。国家が統制する経済システムと平行して、それとは別の地域社会独自の経 済システムが同時に存在しているのだ。この二重経済を生きる人びとの暮らしの断片から、気象（環 境）と生活の関連性について考えてみたい。