近代園芸学事始め[9] -近代園芸学の導入前夜について（その6)—

摘要

上記（7)において解説した高野正誠と土屋龍憲 をフランスに引率してブドウ栽培とワイン醸造の 技術を習得させるうえで大きな貢献を果たした前 田正名は，このほかにおいてもパリ万国博覧会に関 連して園芸振興の面で大きな功績を残している.そ の詳細は『農談雑記』（第一篇，1881)や『仏蘭西 巴里府萬國大博覧會報告書』（1880)，および近年に 著された幾つかの論文で見ることができる.たとえ ば東京談農会発行の『農談雑記』第一篇には，1ベー ジから4ページにわたって内山平八の「法蘭西滞在 中の話」という記事が掲載されていて，1878 年（明治11年）に開催されたパリで3回目となる 万国博覧会参加のためにフランスを訪れた時の経 験談が紹介されている.要旨は次の通りである：「明 治10年，万国博覧会事務官（※前田正名）に随行 してパリに至り，翌年ブドウの剪定を学ばhがため， パリの東南なるトロワ地方に赴き，著名の植物栽培 家バルテのもとに26日間逗留したり.この地にて は主にァラタイジネーと称する剪定の法を行う.そ の法は，ブドウの樹を倒し置きて枝を切り込むなり. 作り方には金線を以て樹の高さを限り，枝を平垣に なすあり.右などを学びたるのち，同年4月末パリむだふた'に帰り，7月再びトロワに行きてブドウ榭の冗枝を 剪定する法を学び，10月頃また行きてブドウ収入の 景況を目撃せり.博覧会閉場ののち，11月ころブー ラレンのジャーマンに就きて接ぎ木の法を学び，ま た土曜日ごとにパリの種苗商ビルモランがもとに 到り，現業に従事し始めて宿志を達するを得たり」.すなわち，内山平八は，高野正誠と土屋龍憲と同じ ように前田正名の世話を受けて，トロワのバルテか らブドゥの栽培方法について指導を受けてきたのである.このほかにも，内山平八は同誌に3つの記 事を書いていることから，東京談農会において，重 要な役割を果たしていた人であると推察される.内山平八が1878年パリ万国博覧会に行ったのは， 内務省御用掛で博覧会事務官長の前田正名が日本 から持参して出品した果樹の栽培展示をするため に随行させた植木職人であつたのである.このとき の事務局職員としては，総裁が大蔵大輔兼勧農局長 の松方正義.御用取扱が外務一等書記生の平山成信 のほか，事務官，通弁ら15名が記録されている.