研究者からのコメント: 水産物の表示制度とコンプライエンスの視点から

摘要

90年代に入り，食品の安全を脅かす事件が続発し，企業も行政も初期対応の拙さから，一般消費者は食品安全への懸念を超えて，「食」への強い不信感、不安感を抱くようになった．消費者が安心して安全な食品を購入できるような「フードシステム」，もしくは「社会システム」を構築することは，もはや今日の食品業界と消費行政に突きつけられた最大の課題となっている．その意味で，「食品安全確保のための社会システムを考える」という本シンポジウムのテーマ設定はきわめて時宜を得たものであり，興味深い試みだと言える．3名の報告者はそれぞれの立場から非常に興味深い論点をそれぞれ提示してくれたが，与えられた役割に従って，以下ではとくに水産物の安全性確保の立場からコメントをさせていただきたい．まずは水産物の安全確保をめぐる今日的な状況を踏まえてから，とくに食品企業のコンプライエンスの視点から水産物表示制度の問題点を析出し，若干の問題提起を行う．