脱成長、持続可能な地域社会の展望

摘要

人類の影響力は，まさしく臨界点にまで拡大したかに みえる。それは，気候の大異変を引き起こし，地球の生 物種の大量絶滅をもたらすレベルにまで達したとみられ る。力、つて数百年から千年単位での変ィ匕のスピードが近年は急加速化し，20世紀から21世紀にかけての百年間で 世界人口が約4倍に（15.6億人から60億人），世界の GDP (国内総生産）総額は約18倍にまで拡大した（2 兆ドル規模から38兆ドル規模，1990年基準値)。こうした急成長に対応して，脱成長経済をめぐる議論 が活発化しているが，その発端ともいえる代表的主張に ローマクラブが発表した『成長の限界』がある。人口， 工業生産，汚染，資源，食糧という代表的な指標による 動態変化をシミュレーション解析したもので，環境ゃ資 源の制約下で近年のような成長、拡大は困難であること を様々な角度から問題提起した1'。いわば環境決定論的 な成長の限界ないし脱経済成長論として，その後の多く の論者の理論的な根拠となってきたのだった。こうした 環境決定論的な論拠とともに，他方では社会、経済的な 視点や人間疎外論的な視点からの脱成長ないし反成長論 的な主張も展開されてきた2)。ここでは，こうした主張 を念頭におきつつ細かい検討はせずに，近年の持続可能 な発展をめぐる議論や動向を踏まえながら，私なりの論 を展開することにしたい。