昆虫の季節戦略と私の研究展望

摘要

あらゆる生物は環境からのさまざま情報を受容し，地 球の長い歴史とともにさまざまな生存環境に適応する能 力を進化させてきた。特に温帯域に棲む動物は，季節の 移り変わりを敏感に察知し，冬のような生存に厳しい季 節や，春や夏のように成長や繁殖に都合の良い季節の到 来を予知し，自らもしくは子孫の生存に有利なようにラ ィフスタイル（生理状態や行動様式）を変化させること ができる。注目すべきことは，これらの環境応答が季節 の周期的な移り変わりから環境の変化を鋭敏に察知し， やがて来る季節を予知して現れるところにある（図1)。 すなわち，夏には日長が長く，冬には短くなる。動物た ちは，この光周期や，これに伴って変動する温度や湿度， 食物の量や質などの環境要因を感受し，やがて来る季節 への適応戦略を練る。この季節戦略は季節的多型として 現れ，動物たちはゲノムに描かれた設計図をもとに，季 節的な外的環境要因の変化に対応して遺伝子発現，神経 ネットワーク，ホルモン分泌などを可塑的に変化させ， 発生プログラムの再編成を行ない，適応的な表現型を出 現させる。しかし，この現象に関与している仕組みはま だほとhどわかっておらず，生物学の今後の重要な課題 である。